
今年はもう平成19年。小渕官房長官が記者会見で「平成」の額縁を掲げてから、それだけの年月が過ぎた。平成生まれ世代の社会進出も始まっている。戦前生まれや昭和生まれがいつまでも活躍している印象がある駅弁も、大都会の駅に行けば当時のものはどこへやら。そして平成生まれの著名駅弁も、徐々に増えてきている。
山形県・奥羽本線米沢駅「牛肉どまん中」(1,000円)は、その代表格のひとつであろう。駅売りの他に山形新幹線の車内販売でも人気の駅弁で、秋冬の駅弁催事でもよく売れ、デパートでの実演販売には行列ができる。山形米「どまんなか」の御飯、その上に詰める牛そぼろと牛肉煮、小いも煮や昆布巻などの付合せ、それぞれ見栄えも風味も確かにうまい。
しかし、昔から銘柄牛が地元の名物である米沢駅では、昭和30年代から牛丼駅弁が売られており、今では約20種類から選べるほど。それでいて十数年前になぜ「牛肉どまん中」だけが爆発的な人気を得たのだろうか。
1992(平成4)年7月の山形新幹線開業で、首都と米沢は毎時1本の直通便で2時間強の距離となり、全国最強の情報発信地との時間的や心理的な距離がぐっと近付いた。そして同年8月には、山形米の新種に「はえぬき」「どまんなか」の名前が付く。山形農業試験場が実施した水稲新品種の名称公募に11万通もの応募があり、その大胆な名前が全国的な話題となった。
中身と地元に結び付くキーワード「牛肉」と、使用する米の名前をちょっとアレンジした「どまん中」を、ただ足しただけの名前。これに合うシンプルなデザインのパッケージと、中身の見栄え。舌で感じない部分にこういう味付けをした駅弁は、過去にあまり思い当たらないし、少なくとも米沢にはなかった。これらの偶然やタイミング、あるいは個性や策略がうまくはまり、新作が名駅弁へと昇華したのだろう。
駅弁は今後も安泰だと思うが、山形米「どまんなか」の現況は安泰でない。作付面積は1995年にピークを打った後に激減し、2005年のデータでは最盛期の3%足らずの496ヘクタール。その数字も近年は毎年約1割ずつ減少を続ける。同期の桜「はえぬき」が、今や山形米の過半を占めるのとは対照的である。
そのうち「牛肉どまん中」は「牛肉はえぬき」になるか、名前を残して他の米を使うことになるのだろうか。あるいはこの駅弁のために「どまんなか」の作付けを続けることになれば、駅弁が救い支える品種という、おそらく世界唯一の農作物になるかもしれない。
なお、米沢駅では2社の駅弁屋が、似た商品と風味で競い合っている。「牛肉どまん中」を得た会社はもう安泰、BSE騒動の頃を除き新作に頼らず、王者の貫禄を見せる。駅弁の内容も風味も価格も負けていないはずなのに、知名度で大差を付けられたもう1社は、新作を連発し空弁に進出したり、ライバルを必死に追いかけているように見える。


by neko
平成生まれのスーパースター「…